なれ初めっつーかなんつーか

全ての始まりはゆっけがS13(鬼キャン)を買ったことだった。それまで、個人的に車は大嫌いであり、自分は絶対乗らないしこれからも乗りたくならないだろう、と思っていた。大学在学中じゃないと免許を取るのはつらい、とわかっていても取る気になれてなかった。高校時代は毎朝チャリで戸塚駅まで行っていたが、すり抜けもままならない車の多さと、頑張って走ると咳き込んでしまうぐらいの空気の悪さにすっかり閉口していた。チャリが使えない日は長後街道の渋滞が酷く、バスに乗っても動かないので歩いて戸塚駅まで行っていた。すなわち、自分の中では車は邪魔物以外の何者でもなかった。

しかし、何度もS13で連行されるうちに、車に乗るのが楽しくなってしまった。それまで車はただの送り迎えのためのものでしかなく、電車があれば移動は十分だと思っていた人間には、車でしか行けない場所へ行くこと、車でしか移動できない時間帯に移動すること、車でしか味わえないその動きそのものは、その考えを改めさせるのに十分過ぎるぐらい刺激的であった。車に興味を持つと後は早かった。すぐさま車の種類を覚え始めた。最初はスカイラインとかカローラぐらいしか名前が浮かんで来なかった。車の構造にも興味を持った。最初はFFやFRという言葉すら知らなかった。教習所にも通い始めた。そんな折り、学校帰りの路上で見かけたのが紺色のやけに角張った車だった。

まずはそのえらく角張った容姿に目をひかれた。顔は悪くない。側面を見るとおっさんがドアを開けて新聞を読んでいた。SUPER CHARGERの文字が目に入った。横もずいぶん角張ってるなあ、という印象だった。後ろにはTOYOTA MR2と書かれていた。ランプのデザインはそれほど気に入りはしなかった。でも、トータルでは合格点以上という印象が残った。ゆっけに話したら、角張ってるからAWだと言われた。もちろんMR2は1種類だと思っていた。後々、その車の生い立ちなどを調べていくうちに、一番好きな車になっていた。サイバーCR-Xともいい勝負だったが、バカみたいなトルクの太さで一歩リードしていた。

そんな感じで大体好きな車も決まり、母親にも買うんだったらこれだね、と言った感じの話をしていたら、何時もお世話になっているディーラーの人に、私がこういう車を欲しがっている、といった感じで伝えたようだった。そうしたら、ディーラーで車を探してみるという連絡が来た。程なく、ディーラーには在庫がないといった返事が帰ってきて、車を探してくれるところを紹介された。欲しい仕様と予算を話したらあっという間に見つかってしまった。白銀のツートンだった。が、店に入庫した時にエンジンルームを開けてみたらインタークーラーがなかった。オークションにはS/C付きで出ていたらしい。やむなくキャンセルとなってしまった。それからまたすぐに、紺のAWが見つかった。AWという車種自体、乗ったことは愚かまじまじと見たこともなかったのに、ここまで話が進んでしまったのである。一応、ここまで来たらやってやるぞ、という覚悟決め開き直ってはいたはずだったが、実はものすごく不安だったのも事実である。

とりあえず、入庫したから車を見に来てほしい、とのことだったので原チャで見に行った。一度も行ったことがなかった方面だったのでもちろん迷ったが、路上に止めてあったAWが道標になった。半年前までは夢にも思わなかった自分の車で、本当に維持できるか、本当に好きになれるか、とあらゆることを考えていたが、実物を見た瞬間そんなものは消し飛んでしまった。後は終始にやけっぱなしであった。ドアを開けてはにやけ、シートに座ってはにやけ、エンジンをかければにやけ、ライトを点けてはにやけ、ボンネットを開けてはにやけ、レーシングしてはにやけ、であった。そのまま順調過ぎるほどに話は進み、後は納車を待つばかりであった。